
とりあえずITやっとけ!
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- 阿部慎(静岡聖光学院・高校2年生)
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- 小森 雄斗(静岡聖光学院・教員)
「先生」として教壇に立ったとき、彼の人生は決まった。大学院在学中に開成高等学校の物理非常勤講師を2年間務めた経験から「子どもひとりひとりがもつ可能性を、最大限伸ばせる社会をつくりたい」という思いを胸にライフイズテック株式会社を設立した水野雄介。デジタルネイティブ世代が世界に羽ばたく翼をさずけるべく、プログラミングやIT技術に特化した教育サービスを展開している。インタビューに先駆けて静岡聖光学院の全校生徒にアンケートをしたところ「将来、起業したい」という回答が想像以上に多かった。水野雄介を「憧れている人」と名指しした学生たちもいる。今回のインタビューでは、そんな彼が歩んできた道のりと、描く未来の姿に迫る。
INDEX
水野雄介(みずのゆうすけ)
ライフイズテック株式会社・代表取締役CEO
1982年、北海道生まれ。慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒、同大学院修了。大学院在学中に、開成高等学校の物理非常勤講師を2年間務める。その後、株式会社ワイキューブを経て、2010年、 ライフイズテック株式会社を設立。2014年には同社がコンピューターサイエンスやICT教育の普及に貢献している組織に与えられる “Google RISE Awards ” を東アジアで初めて授賞するなど、世界的な注目を浴びている。「日本のIT界にイチロー並みの人材を送り出す!」を目標に世界を駆け回る日々を送っている。著書に「ヒーローのように働く7つの法則(角川書店)」。
僕の人生は中高生の教育に捧げよう

- 水野さんは大学院生時代に開成高校で先生をなさっていましたよね。まずは当時、どういう思いで教壇に立ってどんな経験を得られたのかを教えてください。
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もともと中学・高校の頃は野球に夢中で、先生になるのが「昔からの夢」ってわけじゃじゃなかったんだよね。じゃあなんで先生をやってみようと思ったかって言うと、僕、漫画ルーキーズの川藤先生が好きで。夢を持って生きるっていいな、と思ったし、自分がいい先生になれるんじゃないかな?いい学校にできるんじゃないかな?って思って。野球が好きだったのもあるし、教師になってみんなでそういうのを目指すのも面白いし、物理が得意で教えるのも得意だったから、そういう職もありなのかなぁ、って。
- 実際、非常勤講師で開成高校に行かれた頃は少し…川藤先生のことも頭に入れて?
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かなり頭に入れて(笑)。ただ、開成高校の子たちはすごい勉強ができるんですよ。逆に僕がいろいろ勉強させてもらった。そこで思ったのが「いい先生」って「社会のこと」とか「何のために勉強するのか」とかも教えられる先生を指すんじゃないかな?ってことでした。ただ勉強を教えるだけじゃなくて、どうしたらに今やってることに意味をもたせてあげられるのかな、って日々考えてましたね。
- 先生として過ごした時期のどこかのタイミングで、教壇に立って生徒に向き合うだけじゃなくて、もう少し大きい視点というか、いま描いている目標に近づいていったと思うんですけど、そういうマインドに切り替わったタイミングってありますか?
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2年間、生徒たちの前で教壇に立つことができて中高生を教えることの尊さとやりがいっていうのを非常に強く感じて。これから仕事をしていく中で、自分の人生は中高生のために使おうと決められたのは特に大きかったですね。そのくらい素晴らしい学校だったし、何より大学院に行きながら、つまり自分が学びながら現場に出られるっていうのは得難い経験でした。
ただ、教えられる内容が、担当科目しか無かった。物理は教えられる。でも一般社会のこと、仕事のことがわからないんですよ。例えば不動産業の人はどんなやり方で仕事して、どんな技能が必要で、どんな人が合ってるのか。建築家は、金融は、商社は、記者の方は?ってうのがわからない。生徒にそういう話ができないっのが非常に申し訳なくて、3年間…石の上にも三年っていうし、だから3年間って決めて自分は就職をしよう、と。
- そこで就職という選択肢が出てきたんですね。
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そう。でも3年しか無いなら、大企業に行っても「本質」は学びきれない。限られた時間の中でいろんな職種が見られて、成長が早そうなところを探して、ベンチャーの採用コンサルティング会社に行きました。
特に最初に出会った65歳くらいの社長が「今が仕事してて一番楽しい」って言うんですよね。それすごいな、と思って。
その時に中小企業の社長と接する機会がたくさんあって。何となく社長って「すげえ人がなるんだな」ってイメージあるじゃないですか。「借金まみれになってヤバい」みたいなイメージも(笑)。だから僕も当初は全然起業なんて考えてなかったんですけど、実際に「社長」って人に接してみると「あ、僕もできるんじゃない?」みたいな気持ちにさせてくれる方が多くて。
- 普通の企業なら定年してる年齢ですよね。そう言えるってすごいことですよね。
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うん。それで「起業」っていうのが視野に入った。「新しい教育」ってみんな必要だと思ってる。でも打つ手がない。だったら自分が「こういう教育があったほうがいい」っていう教育変革を、サービスの形からチャレンジできるかなって。
ちょうどNHKで「龍馬伝」をやってる時期で「日本を変えるってかっこいい」とかあるわけじゃないですか(笑)。そういう気持ちの後押しもあって起業という形で教育を変えることにチャレンジしようと決断した。
中高生はIT消費者からIT生産者へ

- とはいえ、起業に対する心理的なハードルは高いと感じてしまいます。ともすれば恐怖心とも言えるようなハードルに対してはどう考えていますか?
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昔と比べると起業ってコストがすごく低くなったんですよね。恐れの一番の要因は「お金」だと思うんですけど、昔1000万円必要だった資本金は1円になったし、サービス自体に設備が不要なものも多くなって、パソコン一つあれば起業できる時代になった。
ってことは何ていうのかな…死なない(笑)? 起業して仮に失敗しても、全然大丈夫。むしろその経験はその後、何をするにしてもすごく活きてくる。僕たちの頃からそういう風潮ができ始めて、これから先もっとそうなっていくんじゃないかなと思っています。
- 水野さんが提供しているサービスは教育の分野でも「IT」に特化してますが、それは「教育をITで変える」と起業当初から決めてたんですか?
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最初はキッザニアの中高生版というか、就職とかキャリア教育のサービスをつくるのが良いんじゃないかと思って動き出してみたら、ITをやりたい子がすごく多かったんですよね。開成に行ってたときも「このプログラムどうやって作るの?」とか「ゲームつくったんだけど見てよ!」っていう生徒が結構いて。
でも既にシリコンバレーではそういう能力はすごく必要だって言われてたし、やりたい気持ちがあるのに誰も応援してくれない環境を変えたいと思って。
いまでこそITだプログラミングだ言われてますけど、当時はそういうのに興味がある人は「オタク」って言われていた時代なんですよね。全然モテない、応援してもらえない。親からは「パソコンばっかりやって」とか言われたりして。
開成高校ってひとクラス45人の男子校なんですけど、生徒が昼休みに何話してるかっていうと野球の話題が4人くらい。うち2人は観戦者で2人はプレイヤー。でもITとかアニメとかゲームとか、デジタルが絡んだものは10人以上が話題にしてるんだよね。
ただ、作ってる子は誰もいない。みんな消費者だった。じゃあそれを反転させて「消費者から生産者へ」っていうコンセプトでITに特化したほうが面白いんじゃないかと。日本ではまだ誰もやってないし。ということで方向性が決まりました。
これで「21世紀の福沢諭吉」を目指そう。それをチームでやろう、と。
仲間を集めて大冒険

- 会社のコンセプトと方向性が決まって走り始めたとき、メンバーは水野さん含め3名でしたよね。どんな形で人が集まったんですか?そもそも以前から3人で話し合ってたとかですか?
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僕、ワンピースって漫画が好きで。ワンピースって「チームの漫画」じゃないですか。ああいう本質的な漫画って、間違いなく仲間にする順番もよく考えられてるんですよ。いきなりサンジ(不遇な幼少期を助けてもらった恩を胸に主人公の海賊一味に加わる料理人)じゃない。最初に仲間になるのはゾロ。ゾロってどんなやつかって言うと、剣豪、簡単に言うと強いやつ。
だから大学時代に麻雀で負け続けた、勝負強い松井っていう男をまず誘った。経営って勝負強さがすごく大事だと思ったから。「教育を変える会社をやりたいと思ってる。やんない?」って。大学時代の友人です。
- ルーキーズにワンピース(笑)!いろんなところにヒントがあるんですね!
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そうそう、良いものはなんでも取り入れます。で、次がナミなんですよね。ナミって誰かというと、僕がルフィ(主人公)だとした場合、どこどこに行きたい、海賊王になりたい、ワンピースを見つけたい、ラフテルを見つけたい、ってビジョンを言うわけですよ。でも行き方がわかんない。
勝負強い松井と、コミュニケーションの小森。そして僕。この3人でスタートしました。
航海できないから。そこを航海士が行き方を見つけて連れてってくれるんですよね。だから、僕が描いた地図を読み解いて、道筋を照らしてくれる航海士が必要だ、と。そこで、起業前に働いてた会社の同僚だった小森っていう男に「ウチのナミになってくれないか」と(笑)。
小森はコミュニケーションがすごく得意なんです。人の気持ちを理解することに長けている。100人のうち10人とか30人とか少数派の心に響くものって、つくりやすいんですよ。自分の感性に似てる人がいるから。でも大多数に当たる70人に響くものって本当に難しい。小森はそれができるんです。
- チーム作りの本質はワンピースにありましたか。読み返してみます(笑)。その起業するための知識っていうのはどこで身につけたんですか?
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起業するための知識はね、なかった(笑)。
- え?無かったんですか?
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うん。ゼロ。とりあえずね、いろんな起業してる人の本を読んだのね。資本金がどうとか株がどうとかは聞けばわかる。調べようがある。それよりもまず「起業ってどんな感じなのかな?」っていう気持ちの面を知りたかった。
アメブロとかで有名なサイバーエージェントの藤田社長の本「渋谷ではたらく社長の告白」を読んですごいワクワクしたり、ソフトバンクの孫社長が書いた「志高く」とか、駅ナカとかにあるスープストックの遠山さんが書いた「スープで、行きます」とかを読んで、どんどんわくわくして「ああもう起業してみたい!」みたいな、自分の気持ちを焚きつけて「やってみたい!」って気持ちをつくるところから始めた。
そしたら「まずお金必要かもね」とか「サービスどうやって作るの?」とか具体的に必要なこと、考えなきゃいけないことがみえてきた。
- いろんな企業した人の本を読んで、まずやってみたら成るようになった、みたいな?
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そ(笑)。
デカい志を持って新しいことをやる、それがイノベーション

- もしもいま、僕らが「起業しよう」と決意したら、どんな言葉をかけてくれますか(笑)?これから一つづつ積み上げて「社会を変えよう」とか「起業して目標に近づこう」としてる中高生の世代に向けて。
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「志高く」って孫さんの言葉ですけど、まずはそれですね。小さいものしか…例えば上場しか見てない人は、上場しかできない。でかい山を見てる人ほど、やることは着実にやってかなきゃいけないし、山がでかいぶん大変なことも多いけど、志が高くないとほんとに社会を変える起業家にはなれないと思ってます。志はでかければでかい方がいい。
- そうですよね、社会を変えるんですもんね。起業するのがゴールではなくて、その理由というか志がまず第一ですよね。
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うん。そしてやっぱり「チーム」。またチームの話になっちゃいますけど、「チームである意味」っていうのは、他人を頼ることで、他人とコラボレーションすることで、できることが増える。お互いを認め合って自分でやりすぎないとかってことなんですよ。相手を信じるというか、そういう仲間。
僕はこれから、アメリカで会社をつくるんですけど、そこの社長は中高生のときの同級生で席が後ろのやつなんですよ。東大行って大企業で働いてスタンフォード大学でMBAをとって…すごいキラキラしたやつなんだけど、そいつが「やりたい」って言ってくれて。
そういう仲間に巡り合うためには、まず良いやつでいること。自分も信頼されなきゃいけないから、やっぱ良いやつじゃないとダメなんですよね、起業家ってのは。
こんな楽しいことってないですよ。中高生の同級生で仲いいやつが一緒に会社やってくれるって。そういう仲間はすごく大事ですね。
あとは…いっぱい言っちゃっていいですか(笑)?
- もちろんです(笑)。ぜひお願いします。聞いてるだけでわくわくします。
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これはドラッガーって人の言葉なんですけど「企業の目的は顧客の創造である」と。顧客の創造。顧客を創造しないと企業ではない、と。つまり今から普通のたこ焼き屋さんをやっても意味が無いってことなんですよ。たこ焼き屋さんの顧客はもうたくさんいるから。
だから世界に無いもの、少なくとも日本では未だ無いものをやるのが本当のイノベーションだと思うんだよね。それでもやっぱり、ややもすると起業しても「自分がいまできること」をやろうとして、ある程度それで食える状態ってのを大事にしちゃいがちで。でもそれだと100%全力で顧客の創造に集中できないから、やっぱりうまくいかないことが多いと思う。
- 誰もやってない新しいことを見つけて、それを欲しがる人を探すことに全力で取り組むってことですね。
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ただね、企業ってのは死なないことが大事なんですよ。何かを始めるとき、1万人思いつく人がいて、そのうち100人がスタートする人がいて、1人やり続ける人がいる、っていうのは有名な話なんですけど、志高く…やり続ける。例えうまくいかないことがあっても、企業が死ななきゃ何度でもチャレンジできるし、死んじゃう理由はやっぱりお金なんだよね。
だからお金の使い方さえ間違えなければそれで良くて、で、ずーっと続けてるやつが勝つ。「胆力」があるやつが勝つ。勝つっていうか、上手くいく。だから絶対に諦めないのが大事です。
僕は21世紀の福沢諭吉になる

- 先ほどのお話で、水野さんの志は「21世紀の福沢諭吉」になることでしたよね。
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うん。福沢諭吉本人を目指してるっていうより、彼は教育を作った人、民主主義を作った人で。だがら概念としての「福沢諭吉」を目指したいんだよね。
いま教育にある課題ってものをいろんな視点から、どういう道筋をたどれば、「教育変革」に近づいていけるのか、そのためにチームにどういう人が必要でどんな企業と組んでっていうことを常に考えてる。
教育分野でITを活用してやれることってたくさんあって、例えば教材づくりの時間を削減したり共有したりして生徒と向かい合う時間をもっと確保するとか、元サッカー部の先生が野球部顧問になるようなミスマッチを解決するとか、地理的に起こってしまう学びたいのに学べない地域差みたいのを無くしたりとか。
- 水野さんは中高生の未来や教育にまっすぐに向き合われてますけど、それこそあの「N高」のように、中学や高校を作りたいっていう気持ちになったりするんですか?
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はい。新しい形の学校作りたいです。オックスフォードって1249年からカレッジ制になって、約750年とか800年とか続いてるんだよね。会社って100年続くとすごいっていうけど、オックスフォードって700年以上続いてるんですよ。オックスフォードを中心とした街がつくられてて、コミュニティがあって、それが人類にとってすごい貢献をしていて。僕はあんな学校を作りたい。
- アメリカも大学の周りで街が発展していってるイメージがあります。そもそも学校って誰がどうやったらつくれるんですか(笑)?
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今の学校を変えるには僕は学校をどんどん「民営化」していかなきゃいけないと思ってるんだよね。「企業が学校を持つ時代」になると思う。
まずはITとテクノロジーを活用して、コストを下げてお金の入を増やす。教育の質を高めるってことを実行してる、フラッグシップになる学校をつくるっていうことがポイントかな。それが実現したら僕の教育変革は一段階前進です。
今、福利厚生が充実してない会社に新卒が行きたくないっていうのと同じ感覚で「学校もってない会社ってイケてないよね」っていう状態を作りたい。そこに法令とか絡めてできれば学校に行くお金は寄付とか税金控除されるとかそういう仕組とか。経営者の人も学校作りたいってひと多いんだけど、どんな学校を作ったら良いってのはわかんない。
そのプロじゃないから。だから僕らが一旦まずベースとなる良い学校つくって、で、上に乗ってるコンテンツ、つまり何を学ぶかとかは全然変わって良くて、どんどん色んな所で学校をつくっていく。で、そのシステムやノウハウを公開していろんな所に使ってもらえるようにする。そしたら新たにお金が入る仕組みが生まれるんじゃないかな。
みんなが幸せになってくれたらやっぱり嬉しい

- 僕たちが水野さんに感銘を受けているように、今の取り組みとか視点が広がって、水野さんの一挙手一投足がいま、社会に影響を与えていますよね。僕たちの静岡聖光学院のモットーの中に「Man for Others」(誰かのために行動できる人間」っていうのがあるんですけど、水野さん個人の思いが広がったきっかけを教えてください。
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成功体験だと思います。誰かのために何かした時に、それが「良いことだな」と自分で思えて相手にも思ってもらえることの繰り返しが、もっと何かしたいって思いに繋がってる。
僕は「人は自己満のために生きている」と思ってて。他者に貢献しないと自己満足って得られないんだよね。他者に貢献してそのフィードバックをもって本当の幸せに辿り着く。だから人のために。人が幸せになって自分も幸せになれるって最高じゃないですか。
- いま会社でやっていらっしゃる取り組みの一つ「CAMP」にも、社長でありながら現場に顔を出していらっしゃいますよね。それも役割を持って他者に貢献するためなんですか?
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ううん。僕はほぼ何もしてないね(笑)。運営とか安全とか、満足度を含めた質は全部、他のスタッフに安心して任せられてるから、僕は基本的にはいろんな考え事をしてる。未来を考えるのが僕の仕事だから。
このCAMPは参加してくれる中高生だけじゃなくて、指導役の大学生たちも好きでいてくれるコミュニティで。その理由は、いろんな技術を持った大学生がいてチームになっていくから。
CAMPには参加者6人に対して1人の大学生がつくんだけど、そこにいる大学生は、応募の段階でかなり絞り込んで、その上で100時間の研修と30時間の宿題をクリアした人だけなんだよね。だからみんな、中高生が「こんな先輩になりたい」って思える人たち。
例えば東大生の子とデジタルハリウッドの子がお互い尊敬しあったりする。こいつめっちゃプログラミングできるとか、こいつめっちゃデザインできる、とかそこに音楽できるやつがいて美大生がいてチーム組んでモノをつくったり起業したりってことができるから。しかも中高生のためにって思いがあるからみんな良いやつばっかりだし。
- 僕ら中高生世代の教育だけじゃなくて、広い意味では大学生の先輩たちの教育にも繋がってるんですね。
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そう。普通は出会わないような大学生同士がお互いが尊敬し合えるような環境が作れてることが嬉しい。それをその場で実感しながら、僕は未来を考えてます。
思ってるだけじゃ何も変えられない

- 僕らはこれから大学を選んで受験するんですけど、そういう時期にどういうことを考えて進んでいったらい良いと思いますか?
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いまの世の中が昔と一番違うのは「グローバル化してる」ってことなんだよね。受験を控えたみんなに親御さんが「勉強しなさい」っていうのは、子どものみんなに幸せになってほしいから。そのために良い高校に行ったり良い大学に行ったり、良い企業に行くことで幸せになる確率を上げてきた。
でも、グローバル化してIT化していくなかで、就活も変わって、終身雇用もなくなって、働き方改革も起こって、皆がこれまで当たり前だと思ってきた世界が、どんどん変わっていく時代なんだよ。しかもものすごいスピードで。
その時代に重要な力って僕は「想像力」と「実行力」だと思ってる。これがあればどんなとこに行っても新しいものが作れて、市場が作れて、そして仲間を集めて実行できるから。
- 想像力と実行力って具体的に教えてもらってもいいですか?
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想像力っていうのはツールを持つことだと考えてる。プログラミングもその一つだよね。想像したことを道具を使って形にする。もう一つの実行力は「起業家精神(アントレプレナーシップ)」って言われてるけど、社会にどんな課題があってどうしたら解決できるのか、考えて行動する力なんだよね。
想像力と実行力。この2つを持って伸ばせる道を選んで進んでくと、これからの時代に活躍できる素地ができてくんじゃないかな。
で、課題をみつける最初の一歩は「自分と人は違うんだ」って知ること。だから自分の学校にいるだけと感じづらいと思う。そういうのは海外に行くとわかりやすいよ。全然文化が違うから。そこで抱えてる課題、相手が抱えてる課題、地方の人たちが抱えてる課題、そういう目で見だすと自分のまわりの環境もみえてくる。そういう多様性(ダイバーシティ)をたくさん見られる、色んな人と出会えてそこでいろんな違いを知れる、そのなかで自分が何をやりたいか考えて行動する。
ただ考えてるだけじゃ何も変わらないから、それを変えられる力を身につけないといけない。あとはどの領域でそれをやるか。
とりあえずITやっとけ!

- AIとかITとかプログラミングは大事だ、これからを生き抜くには必須だって叫ばれたり、プログラミングが義務教育化する世の中になってますけど、僕らも僕らの親も、実はまだ、AIとかプログラミングにピンときてない人が多い気がするんです。自分が触れてきてないじゃないですか。実際の世の中にAIとかIT、プログラミングってどんなふうに関わってくるんですか?
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どの産業とかどんな仕事に、なんてレベルじゃなくて、これから生きてくところ、全てにITは入ってくる時代なんだよね。最低限のリテラシーとしてITがどう動いてて何のためにどう活用されているのかっていうのを知らないと、どんな職業に就くとしても「チャンスをたくさん失ってしまう」状態。
全員がプログラマーになってほしいとかじゃなくて、プログラムがどう成り立ってて、どう書かれてるかってことを最低限のリテラシーとして知ってると、反対にチャンスが広がる。幸せになる確度が上がる。クリエイティビティーなんですよ、プログラミングやITの本質ってのは。人間はそうやって進化してきたわけで。
- 知らないうちにチャンスを失って取り残されるのは怖いです。僕たちが就職するときにはもう、いままでの職業が様変わりして、まだ無い新しい職業に就くことになるのかな…。
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もう少し具体的に言うと、ある銀行では80%の営業マンを削減してテクノロジーで代替していくほうに動いている。車だってITになってきてる中で、車が好きだから車の会社に就職したいと思ってたとしても、もしITのこと知らなかったら他の人に勝てないですよね。だから就職もしにくくなるし。
でもね、やっぱりITとかテクノロジーとかって全部スキルでツールなんだよね。本当に一番大切なことって、やっぱ大きな夢を持つことなんだよ。大きな夢を持って、一瞬一瞬を頑張ること。これやってれば、絶対幸せになれる。根底にその思いがあって、頑張りがあって初めてそういう技術が活きてくるものだから。
こういうことが起こったりできたりするのがITの力なんだよね。逆に一人のエンジニアが10兆円とか30兆円とか言われる、トヨタを超える会社をたった10年でつくってる。だからどの職業が失われたとしても、ITの力を持っていると生き残っていける。イノベーションを起こせる。自分が事業を興す力を持てる。
- どの領域で頑張るにしても、確実に自分が目標を実現する武器になるってことですよね。プラスにしかならないITやプログラミングの基礎知識を学ぶのであれば早ければ早い方がいいですよね。
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大きな目標をもって頑張ってる子はそれに向かって頑張って欲しい。それを頑張れば何かみえてきたり得られるものってたくさんあるから。
仮にもし、志とか夢を持ってない子や今頑張れるものがあまり思いつかない子がいるんだとしたら、頑張れるものを見つけてあげるのが僕らや教師の仕事なので、もしそれでITが好きになってくれたら、ITはほんとすごい武器になるから持たせてあげたいなっていう気持ちがすごくある。
いま1番、「ここ抑えとけばいい」っていうとITだから。ITやっとけばそれが将来それに繋がった時に役に立つ可能性がめちゃめちゃ高いと思う。だからもし色々迷うんだったら、「とりあえずみんなITやっとけ!」って伝えたいです。

編集後記_阿部慎
「会社が学校を経営するような社会」を実現したいという目標があり、それに向けて様々なことを考え実行しているということがすごいと思った。もしその学校に通えるなら通ってみたい。また、経営において最も重要なことがわかっており、またその例がわかりやすくとても参考になった。私は今、将来IT関連の仕事に就こうと思っていたが、社長の話を聞いて自分でもっと考えてみようと思った。もともとやりたいことは多く、将来やりたいことは具体的には決まっていない。だからこれを機に、大きな夢を自分も少なくとも一つ作り、それを実現する為に生きていこうと思った。
- 取材日
- 2020/06/11
- 取材
- 阿部慎(静岡聖光学院・高校2年生)
- 取材サポート
- 小森 雄斗(静岡聖光学院・教員)